東京高等裁判所 昭和36年(ツ)114号 判決
農地法第二〇条第一項によれば、農地又は採草放牧地の賃貸借の当事者は知事の許可を受けなければ賃貸借の解除、解約の申入、合意による解約又は更新拒絶の通知をしてはならない旨規定せられ、その例外としては、わずかに民事調停法による農事調停により合意解約が行なわれる場合のみに認められているのである。また、同条第五項は、右許可を受けないでした行為はその効力を生じない旨を規定し、右許可が解除、解約等の法律行為の有効要件であることを明らかにしているのであるから、知事が右許可申請に対し不許可の処分をなしたときは、抗告訴訟によつて救済を求めうるのはもちろんであるけれども、裁判上解除権を行使して農地の明渡を求めるについて、知事の許可を要しない場合を認めるときは、農事行政を専門的に担当する行政庁の内部においてまず自治的に且つ実情に則して解決させるための許可という行政庁の処分を全く不必要とすることとなり、農地法の目的に反するばかりでなく、司法の事後審査の建前を破り三権分立の精神に反することとなるので、法令の根拠なくしてこれを認めることは許されない。もつとも、農地法第二〇条第一項は、合意による解約が民事調停法による農事調停によつて行われる場合には、知事の許可を要しないとする例外の場合を認めていることは、上記のとおりであるが、民事調停法は、農事調停においては、小作官又は小作主事が期日に出席し又は期日外で意見を述べることができ、調停にあたつては小作官又は小作主事の意見を聞くことを要する旨を規定しているので、農事調停で賃貸借の合意解約がなされ、小作地返還が行なわれる場合にはこれらの行政機関が知事に代つて解約が相当であるかどうかを審査する機会が与えられるため、例外的に知事の許可を要しない旨を定めたまでのことである。従つて、原判決のいうように、右例外規定があるからといつて裁判上の解除権行使に知事の許可を要しない例外の場合を認めることの根拠とすることはできない筋合である。
(村松 浜田 伊藤)